Constellation.s展 その①
2016.10.14
都市展「constellation.s」への参加
私たちY-GSA/IAS「次世代居住都市」研究ユニットはスイス連邦工科大学(ETH)と共同で都市展「constellation.s」へ研究成果を出展した。この展覧会はフランス・ボルドーにあるarc en reve(アルカンレーヴ)建築センターで6月2日〜9月25日の会期で開催された。Y-GSA/IASはETHと、2015年4月から「Spaces of Commoning」(以下SoC)というテーマを掲げ、共同研究を行ってきた。SoCについては後ほど詳しく触れるが、人々が時間、活動、知識、ものを共有し、関係性を育てていく場のことであり、現代都市における新しい空間の見方を提示しようと試みたものである。2001年にレム・コールハースが企画したMutations展以来15年ぶりの大規模な都市展「constellation.s」では変容する現代都市に対応した新しい居住や住環境に関わるプロジェクトが展示され、世界へ発信される。
※arc en reve(アルカンレーヴ)建築センターHP: http://www.arcenreve.com
参加者は、2015年のプリツカー賞を受賞したチリのアレハンドロ・アラヴェナ率いるエレメンタルをはじめとして、昨年のターナー賞を受賞したイギリスの若き建築家集団アッセンブル、そしてソーシャルハウジングの大胆なリノベーションを実践するラカトン&ヴァッサルなど、名だたる建築家や研究機関、全42チームによって構成される。
constellation.s展は奇しくも同時期に開催されているヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展「REPORTING FROM THE FRONT」と多くの共通点を持った展覧会である。両展覧会とも「スターキテクト」(starchitect)がつくり出すアイコニックな建築をメインで取り上げる展覧会とは異なり、難民問題、住宅不足、地域活性化などの様々な社会的課題を扱った建築的実践をクローズアップしている点が特徴だ。イタリア・ヴェネツィアとフランス・ボルドーという異なる地で行われた展覧会だが、建築に対する共通のメッセージを垣間見ることができる。
資源としての空間
“Spaces of Commoning”(SoC)とは、「人々が時間、活動、 知識、モノを共有し、関係性を育んでいく場」としてETHの研究者であり建築家でもあるライナー・ヘール氏とY-GSAが考え共に発展させてきた概念である。SoCにおいて最も重要な視点は、空間を有限の資源として捉える点にある。森林資源や海洋資源と同じように空間も一つの資源として捉え、どのように共有され、どういう主体が関わり、どのような仕組みで管理・運営されているのかを分析することで、現代社会における人々と空間の関係をより深く理解することができるのではないかと考えた。SoCは個人主義化が進み、市場の原理が強くなってきている現代社会において、人々が共に育む空間や場が奪われている状況に対して問題提起をするものでもある。
SoCを成立させる3つの視点
上図のようにSoCはリソース(resorces)、コミュニティ(community)、プロトコル(protocol) という3つの視点で構成されると考えた。ひとつひとつの空間は「資源(リソース)」としての特徴を持っており、人々に提供する価値も異なる。また、ある場所が特定のコミュニティによって占有されることで、他の人がその場を使えなくなってしまうように、他の自然資源と同じように、空間もそうした経済用語で言う「排除性」を性質として持っている。そうした理由から、誰がその場を使用し、どういったコミュニティによって管理されているかという視点は欠かせない。また、空間の使われ方を含めた広い意味でのルールや仕組みといった「プロトコル」の視点も不可欠だ。ルールは明示された規則のようなものもあれば、慣習のような文化に根付いた暗黙的なものまで場所の性質によって異なる方法で存在している。
例えば、日本の木造密集住宅地をSoCの視点でみてみると、資源としての空間は、各住戸の延長として使われている路地空間と定義できる。路地には車が入ってこないので子どもが遊んだり、住人が自分の庭のように植物を手入れしたり、座って世間話をしたりするような空間的状況を提供している。さらには、そこでや住人同士の間でやりとりされる情報や関係性自体も空間の価値を高める資源として捉えることも可能だ。また、路地空間そのものは単体として独立して存在しているわけではなく、実際に路地を使っている住人や自治体のメンバーによって管理され使われることによって、その存在意義と価値を発揮する。そして、そうした状況を持続的に生み出すために、その背後には毎日の清掃や地域でのイベントに参加することなど、暗黙のルールや文化的慣習が働いている。どれも当たり前のことかもしれないが、空間を有限の資源として捉えたとき、このように3つの視点で丁寧に場を分析していくことで、空間そのものの質を分析することができ、共有が成立するためのシステムを理解することができる。SoC地域や場によって全く異なる仕組みで成立しており、時間をかけて出来上がったものも多い。そういった意味でSoCの研究は、いきいきと場を使いこなすための様々な知恵や仕組みを学ぶことと言い換えることができる。
「コモニンング」とは
”commoning(コモニング)”という言葉は「コモン化する」という意味をもち、地理学者、デヴィット・ハーヴェイの著書である『反乱する都市』などの書物を通して着目した言葉である。common(コモン)とは共同的なものを意味し、ハーヴェイは著書の中で、都市は様々な人々が混じり合って生活しながらこのコモンを生産する場であると説明している。そして、コモンとは固定化された特殊な物や資産というよりは、むしろ不安定で可変的な一つの社会関係として解釈されるべきであると主張する。都市における公共空間が本来のコモンとして人々に共有されるためには、その空間に関わる活動といった人々による社会的実践が存在する。この空間をコモン化しようという社会的実践こそがcommoning(コモニング)であり、都市の公共空間が市場原理によって私有化されていくなかで、人々が自発的に自分たちのための空間を取り戻すcommoningという実践を通して人々が都市の中で様々な関係性を育む場が生まれると考える。SoC研究は、そうしたコモニングという活動を支える場や、そうした活動が実現されている場に注目し、その原理を抽出することが目的である。だからこそ、常に空間とそこに伴う活動や関係性を一緒に考える必要がある。SoCを通して現代都市を捉え直すことは、大きく転換期にある現代社会において非常に重要な意味をもつのではないだろうか。
東京とリオ・デジャネイロの比較研究
SoCの研究対象として、東京とリオ・デジャネイロの2つの都市を取り上げることにした。リオ・デジャネイロは共同研究者であるETHのライナー・ヘール氏が博士論文においてブラジルの不法占拠居住地区であるファベーラを研究対象にしたことがきっかけで着目し、また、Y-GSAは以前から東京において木造密集住宅地や都市居住に関わる研究を行ってきたため、リオと東京を研究対象とした。この2都市は共に非西欧圏の都市として独自の文化や背景をもつという共通点があり、全く異なる2つの文化圏において、SoCがどのように存在しているのかを比較しながら検証することができる。リサーチは、各都市において、SoCのよい事例となりうるようなものを大量にピックアップし、最終的に計12事例、各都市において6事例を選択し分析を進めた。
最終的に取り上げた12の事例
<東京>
有楽町自販機酒場
鬼子母神の参道
上野公園の花見
皇居ラン
みやした公園
広尾の木造密集市街地(木密)
<リオ・デジャネイロ>
ファベーラ・ビディガルのプラザ
ファベーラ・タバレ・バストスのサッカーフィールド
カーニバル・スタジアム
フラメンゴのハイウェイ
カルティエ・カリオカ・コンドミニアム
コーポラティブ・ハウジング “シャングリラ“
展示:12の事例と3つのアウトプット
Constellation.s展では12の事例をパネル、都市模型、360°動画の3つのメディアを使って展示した。1つ目のパネルは、それぞれの空間におけるモノ・ヒト・コトの関係を分析し提示したものである。2つ目の都市模型はそれぞれの場所の地理的・都市的なコンテクストをあらわすものである。そして最後の360°動画は、映像と音そしてそれらを360°見渡すことを通してその場所を疑似体験するためのコンテンツである。
パネル:モノ・ヒト・コトの関係分析
都市模型:場所のコンテクストをあらわす
360°動画:その空間に立ってみる