Constellation.s展 その③
2016.10.14
ステレオタイプ化する都市
イタリア・ヴェネツィアで行われている「REPORTING FROM THE FRONT」とフランス・ボルドーの「Constellation.s」は、展示コンテンツや出展者など共通している部分が多い。一方で、両者からは微妙な差異を読み取ることができる。その違いは今後の建築や都市を考えていく上で重要な違いになりそうである。
私たちはそれを確かめるために「REPORTING FROM THE FRONT」を実際に訪れたかったが、フランス・ボルドーからの帰路、イタリア・ヴェネツィアを経由することができなかった。しかし、メディアで取り上げられている内容や批評文を情報元にその違いについて言及し、建築が向かう方向性について考えてみたい。
2010年にMoMAで行われた「Small Scale Big Change(SSBC)」は、社会問題を扱う存在としての建築家や建築プロジェクトにフォーカスし、その後のSocial Architectureと言われるような方向性を指し示したという点で大きな転換点となる展覧会であったと言える。その後、日本でも3.11をきっかけに、建築家による復興支援ネットワークを掲げたArchi+Aidの活動や伊東豊雄氏による「みんなの家」などのプロジェクトが立ち上がり、最近では建築家のよるリノベーションを通したまちづくりプロジェクトがメディアで取り上げられるようになるなど、国内でもそうした流れがここ数年の間、急速に広まり注目されるようになってきた。そして、今年行われたヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展のテーマ「REPORTING FROM THE FRONT」のように、Social Architectureと言われるような建築による社会的な実践が世界的な舞台である建築ビエンナーレにおいて取り上げられたことは、こうした動きがもはや建築界において小さな傍流ではなく、ひとつのトレンドとして認識されメディアでも消費されはじめたことを端的に示す象徴的な出来事であったと言える。
さて、「Small Scale Big Change」と「REPORTING FROM THE FRONT」はそのタイトルからも伺えるように、「建築のメインストリームが変わってきている」ということをひとつの重要なメッセージとしている。これまでのアイコニックな建築が多くつくられてきた状況に対して、「小さいものだけど、大きな変化を起こせる!」や「今の最前線の位置はここだ!」という主張は、アンチまではいかないまでも今まで主流として見なされてきたものに対するひとつのカウンターアタックとして言説やコンテンツが組み立てられているということがわかる。2010年の「Small Scale Big Change」の時点ではそうしたメッセージも意味のあるものであったかもしれないが、しかし、それから6年が経った2016年の「REPORTING FROM THE FRONT」に至っても尚、コアとなるメッセージに本質的な変化がないことは、豊潤な内容を含むひとつひとつのプロジェクトや実践をステレオタイプ化してしまう危険性があり、建築界全体にとっても次なるステップを模索するという意味で生産的な方向性に展開するとは言えない。そうした視点に立つと、Constelation.s展は、その不思議なタイトルからも分かるように、もう一歩踏み込んだメッセージを模索しようとしているように思える。
星座という新たな視点で都市をみる
Constellationは直訳すると「星座」である。都市を扱う展覧会でなぜ「星座」なのだろうか。上の写真は展覧会のパンフレットである。 都市に関連するあらゆるキーワードが散りばめられ、それぞれのプロジェクトに対して関係するものが線で結ばれ「星座」が浮き上がっている。この「星座」は何を意味しているのだろうか少し考えてみた。
出展チームの1つである建築家集団アッセンブルは、地域のコミュニティに深く入り込み、建物をつくることと並列して、その地域に住む人々、自分たちの実践に関わる人とプロセスを踏んで関係性をつくり、建築への姿勢を示している。また、ベルギー・ブリュッセルで活躍するローターは、ものの素材を資源と考え、人によって使われなくなった空間から、再利用可能で魅力的な建築マテリアルを抽出し、サンプリングするという試みをすることで、時間を含んだものの流れを通して行われる建築的思考を示している。
彼らの活動を見ると、建物を設計する設計士としての側面を持ち合わせながら、テクニカルな枠では包含しきれない、人・もの・ことをも含んだ全体像が、彼らの「建築」としてかたちになっていることが分かる。物理的に目に見えるものだけを扱うのではなく、目に見えない「人と人」、「ものと人」などの「関係性」をどのように捉えるかということが、建築家としての彼ら自身や、彼らがつくる建築自体のアイデンティティになっている。複雑な事象の中にある関係性のまとまりを発見し、構築していく行為は、状況によって移り変わる点と点が繋がり、線として、ある構造や形態を認識していくという行為と同じであり、それらが本展覧会のテーマである「星座」という比喩によって相対化されている。
アッセンブルやローターのみならず、constellation.s展で扱われた数々のプロジェクトの中には、「関係性」をどのように捉えるかということが主題になっているものが多いと感じた。私たちのプロジェクトSoCも空間の背後にある見えない関係性について考えたものである。それは「アクター」として、具体的にその場所に関わる人・もの・ことを綿密に分析し、それらを関係性のダイヤグラムの図に落とし込むという研究の方法が示唆している。プロジェクトの背後にある「星座」をどう描くか、つまり関係性を発見・構築する行為は新たな建築や空間の思想を確立することにつながる可能性をもつ。建築家自身や建築を取り巻く地域や人々、そこにある環境の存在意義を高める可能性を持つのである。
また、関係性の発見・構築は、個々のプロジェクトに留まらず、世界的な規模で物事を捉える視点に応用できる。地球の裏側で起きた出来事が日本の経済に影響を与えたり、世界的な砂漠化の問題が先進国の産業構造に起因しているなど、地球の裏側で起きている極めてシリアスな問題が自分たちの日々の生活と無関係とは言えなくなってきている状況がある。そういった意味で世界の距離はますます縮まっており、関係性が強くなってきている。そのような社会構造の中に私たちが生きている以上、今まで以上に関係性のスケールをグローバル規模まで引き上げて考える必然性がそこにはある。
様々な建築メディアが、各プロジェクトの本質的な価値や建築の新たな価値観を提示することをせず、今まで主流とされてきた建築とは異なる流れとして「ソーシャル・アーキテクチャ」をひとくくりにし、複数のプロジェクトをパッケージ化してしまう近年の状況とは違い、arc en reve(アルカンレーヴ)建築センターが「星座」、つまり都市の関係性自体に着目し、一歩踏み込んだ議論を展開しようとしている今回の試みは評価できるものである。
様々な社会リスクが世界規模で地続き的に顕在化し、その状況を認識できる時代だからこそ、都市や建築を考え批評する立場である建築家、批評家、キュレーターなどの発信する側に立つ者はステレオタイプ化しカテゴライズされた論点に帰着し、都市の捉え方をフレーム内に収めてしまうことへの危険性を感じなければならない。constellation.s展がアルカンレーヴでの15年ぶりの都市展で掲げた「星座」というキーワードはそのようなことを私たちに投げかけてくれた。どの点とどの点が結ばれ星座をつくることができるのか、つまりプロジェクトごとの関係性やプロジェクト同士の関係性を慎重に考える姿勢こそが21世紀の今現在、多様でひとくくりには捉えきれない都市と向き合う建築家やメディアに求められているのではないか。
一方で建築は関係性があればできるものでもなく、方法も理論もまだ不十分である。その点で議論をどのように組み立てていくかは、今後Y-GSA/IAS「次世代居住都市」研究ユニットでも実践のプロジェクトを通して検証していきたいと考えている。
※ リンク:http://www.constellations.arcenreve.com/spaces-of-commoning/?lang=en